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『空を見てる』

1：従業員Ｎ :
2012/06/11 (Mon) 17:41:21: Ｎです。私事で恐縮ですが、ちょいと父の法事で埼玉県へ行っておりました。本日久し振りにバッティングセンター出勤です。
今は埼玉県と何の関係も無い生活を送っておりますが、どうも本家がそこにあるらしいのです。ややこしいです。
そんな訳でしばらくバッティングセンターご無沙汰の私は、特にネタも持ち合わせておりませんので、今日はこんな個人的な物を載せて見たいと思います。
お暇で仕方がない方がいらっしゃいましたら、ちょっと読んで頂けると嬉しいです。もちろん、バッティングセンターとは何の関係もございませんので、興味の無い方はスルーして下さい。長いですし。
今は父の法事の感傷に浸っております。
それでは、本日はこの辺で失礼いたします。

『空を見てる』

僕がまだ小学生だった冬の日、家族一緒に映画館で映画を観た後に、待ち構えて近寄ってきたテレビのインタビュアーが私の父に質問をしていた。

「あなたはなぜ、映画館で映画を観るのですか？レンタルビデオの方がお手軽ではないですか？」

カメラと照明を向けられ、レンタルビデオと映画館の相違と映画館の商業的負けっぷりを聞き出したかった小奇麗にはしているがそれ程美人ではないインタビュアーに、父は眉根を寄せながらこう答えていた。

「映画を観た後、街を歩いて帰りたいからだ。」

「あ、、そ、そうですね、、なるほど、、、」
それ程美人でないインタビュアーは懸命に作った笑顔の中に、明らかに引き攣った表情と変な人に質問をしてしまったという憮然な態度を織り交ぜたまま、すぐに私達の後に映画館から出てきた人へ同じ質問をしに行ってしまった。
テレビカメラが動くと同時に、照らされていたライトは瞬時に向きを変え、父の辺りは一瞬にして今まで以上に暗くなった。気がつくと足を止めて集まっていた通行人も何事も無かったように雑踏と一体化し、私達家族はポツンと街並みから残されたようにそこに佇む羽目になってしまった。

私達はしばらく呆然とした後、父が日の出町の駅に向かって歩き始め、僕達家族もそれに付いて行った。そして何分かした後、僕は父に先程の意味を質問した。
父は少しにやけながら、

「映画を観た後、その映画を思い出しながらいつもの街を見ていると、いつも歩いている街にもまた違ったものが見えるんだよ。」

僕はいつも以上に伊勢佐木町の街を見るために首を左右にグルングルンと回してみた。
街路灯は新しい。その一つ一つが長方形の光を路地に照らしている。左右にポツポツと設置されている街路のスピーカーからはテンポの良い曲が流れ、それらの照明と音は肌を突き刺す寒さの街並みを、ほんの少しだけ暖かくしているように思えた。
ただ、どちらにしろ映画とはあんまり関係がなさそうな街並みだった。

当時の日本としてはある特殊分野のエンジニアをしていた父。年収は当時から1000万円以上と母から聞いていた。私の兄は高校生くらいの頃から「僕達は全ての面であの親父を越えなければならない。もちろん収入も含めてだ。」というのが口癖だった。

僕は空を見る。
家庭や仕事、友人との関係、新しい出逢い、本との関係、映画との出逢い・・そういったものに、良い時も悪い時もなにかしらの気持ちの動揺を感じた時、僕は必ず建物から外に出て空を仰ぎ、足を止めてしまう。
静かに空に吸い込まれるように、一人っきりで外へ出る。

そして意識する。空の色は僕の心をいつも捉えていると。
それは時には僕の未来や夢や希望や情熱までも映し出している。
いや、空だけではない。風も街並みも通りの雑踏も空をキャンバスとした目に映る全てのものが、自分の投影になっている。

あの頃より、既に20年以上の月日が過ぎた。僕は家族を持ち既に2児の父親になっている。
そして僕は今、あの頃父が見ていた街並みを、空の青さに感じているのかもしれない。
ほんの少しだけ近づけたのだろうか。もちろん、年収は全くおよんでないが、、

今日も本屋から出た僕はいつものように空を見上げる。辺りの建物のネオンが黄昏初め、初夏の空に少しずつ馴染んでいく。
ふと、昔の事を思い出した。

もう逢う事が無いあの父は、今は街並みに何を見ているのだろうか。
薄い雲を風で流しながら、青空は今日も僕の心を映し出している。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい

後日談として、伊勢佐木町通りの映画館数はもう既に半減し、あの通りの映画産業は危機状態であるとなにかの新聞記事に書いてあった。
そして、あの時のインタビューのテレビ放送を家族全員で楽しみに観たのだが、しっかりと父の部分はカットされていた。
映画を映画館で観る理由が、街を歩いて帰りたいからだ、んん、やっぱり使えないんだろうな、テレビでは。
今思い出しても、結構いい言葉じゃん、なんて思う。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ｎ
2：新人バイトD :
2012/06/12 (Tue) 22:43:43: 素敵なお父様ですね。

忙しく過ごしてると目の前の事しか見えなかったりするけど、たまには空を見上げて無になる瞬間が欲しいですよねー
…と、柄にもない事を言ってみたりして(￣∇￣)
3：授業員N :
2012/06/12 (Tue) 23:17:29: Dさん、コメントそして読んでくれてありがとう。

Dさんはどんな風に空が見えているかな？